最高裁判所第二小法廷 昭和51年(オ)361号 判決 1978年2月24日
上告人
陳政雄
右訴訟代理人
日笠博雄
溝口節夫
被上告人
林愛玉
外九名
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人日笠博雄、同溝口節夫の上告理由第一点について
訴外亡林水峻が死亡当時中華民国国籍を有する者であつたことを認め、法例にいう同人の本国法を中華民国法であるとして、同人の相続関係につき法例二五条により、また同人のした認知に関し同法一八条により、中華民国民法を適用した原審の認定判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第二点について
嫡出でない子につき、父から、これを嫡出子とする出生届がされ、又は嫡出でない子としての出生届がされた場合において、右各出生届が戸籍事務管掌者によつて受理されたときは、その各届は認知届としての効力を有するものと解するのが相当である。けだし、右各届は子の認知を主旨とするものではないし、嫡出子でない子を嫡出子とする出生届には母の記載について事実に反するところがあり、また嫡出でない子について父から出生届がされることは法律上予定されておらず、父がたまたま届出たときにおいてもそれは同居者の資格において届出たとみられるにすぎないのであるが(戸籍法五二条二、三項参照)、認知届は、父が、戸籍事務管掌者に対し、嫡出子でない子につき自己の子であることを承認し、その旨を申告する意思の表示であるところ、右各出生届にも、父が、戸籍事務管掌者に対し、子の出生を申告することのほかに、出生した子が自己の子であることを父として承認し、その旨申告する意思の表示が含まれており、右各届が戸籍事務管掌者によつて受理された以上は、これに認知届の効力を認めて差支えないと考えられるからである。
その他所論の点に関する原審の認定判断は正当であり、その過程に所論の違法はない。
同第三点について
所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、独自の見解に立つて原判決を論難するものであつて、採用することができない。
同第四点について
被上告人らが各自本件貸金二〇〇万円及びこれに対する遅延損害金全額の請求をすることにつき被上告人ら相互の間において同意があつたものと推定することができるとした原審の認定判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(大塚喜一郎 吉田豊 本林譲 栗本一夫)
上告代理人日笠博雄、同溝口節夫の上告理由
第一点 <省略>
第二点 原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈の誤りがある。
1(一) 原判決は、被上告人林政子および被上告人須藤浩子について、「成立に争のない甲第一三、甲第一六号証によれば林水峻は自らを同人らの父としてその出生届をし、受理されていることが明らかである。右は戸籍法第六〇条の認知届ではないが、事実上の父である林水峻が戸籍事務管掌者に対し自分の子であることを承認し、その旨申告して受理されたのであるから、これに認知の効力を認むべきであり、そうだとすればこれもまた任意認知の一つの方式と理解することが相当である。よつて法例第八条第二項により中華民国民法上の任意認知として有効である」と判断している。
(二) しかし原判決は、林永峻がなした「父林水峻、母ミチ子(妻の名でない)」と記載した同人らの出生届は、戸籍法第六〇条所定の認知届ではないとしながら、右もまた任意認知の一つの方式と理解するのが相当であるとした判断は、戸籍法第六〇条の解釈を誤つた違法があるといわねばならない(民法第七八一条第一項参照)。戸籍法上庶子出生届は認められていない。
2(一) 原判決は、被上告人須藤万里子、同須藤正雄、同大野実、同大野高輝について、いずれも林水峻との間に事実上の父子関係が存在することが認められるので、外国人である林水峻のなしたこれらの者に対する嫡出子出生届(甲第一四、第一五、第八、第九号証)を任意認知の一つの方式と理解するのが相当であると判断している。
(二) しかし嫡出子出生届は戸籍法第六〇条所定の認知届ではない。外国人のなした嫡出子出生届を任意認知の一つの方式と理解する原判決判断には戸籍法第六〇条の解釈と誤つた違法がある。
3(一) 原判決は、被上告人林峻宝について、林水峻のなした出生届(甲第一二号証)は法例第八条第二項に則つた認知の届出に認めるべきと判断している。
(二) しかし右出生届は戸籍法第六〇条所定の認知届でないことは明らかであり、しかも戸籍法は庶子出生届を認めていない。身分関係に重大な影響をおよぼす認知について、その認知の方式を戸籍法第六〇条所定のほかに認めることは許されることでない。右出生届を認知の一つの方式と理解する原判決判断には違法がある。
4(一) 原判決は、被上告人林宝珠について、同人の生年月日は昭和八年一一月六日が正しいものであり、外国人登録原票の記載は、林水峻が誤つて届出たものであること、昭和四九年八月一三日に右登録原票の記載も正しい日付(一九三三年一一月六日)と訂正されたことが認められるとし、認知効力を認める判断をしている。
そして原判決は、被上告人島村峻子(旧、林峻子)について、同人の外国人登録証明書(甲第七号証)中の本国における住所の記載は、同人が台湾に留学していた当時の住所であつて、再入国の際に記入したものと認定し、認知の効力を認める判断をしている。
(二) しかし外国人登録法第四条第一項は、外国人登録原票に氏名、出生の年月日、国籍、国籍の属する国における住所、上陸した出入国港、上陸許可の年月日、在留資格、在留期間等を登録することに定めている。
(三) 林宝珠の登録証明書(甲第二三号証)は林宝珠を無国籍と記載しているから、外国人登録原票にも無国籍と登録されていることが認められる。そうすると林宝珠について中華人民共和国に国籍を有する林水峻の認知があつたとすることはできない。原判決が認知の判定をしている判断は外国人登録法第三条、第四条一項、第五条第一項の規定の解釈を誤つた違法がある。
(三) また島村峻子については、甲第七号証により、外国人登録原票における国籍の属する国の住所が台湾省と登録されていること、上陸した出入国港、上陸許可年月日、在留資格および在留期間の登録のないこと、が認められる。そうすると同人の外国人登録証(甲第七号証)中の本国における住所の記載は同人の台湾に留学していた当時の住所であつて再入国の際に記入したものと認められるとの原判決判断は、外国人登録法第三条、第四条一項、第五条第一項の解釈を誤つた違法がある。福建省に国籍の属する住所を有する林水峻が台湾省に国籍の属する住所を有した林峻子(現島村峻子)を認知していると判定の原判決判断は違法の判断である。
第三点、第四点 <省略>